東京工業大学 ENGLISH

Research

6G時代の超小型衛星コンステレーション搭載に向けた無線機

現在、宇宙における新たな通信ネットワークとして期待される低軌道衛星コンステレーションの実現に向け、宇宙でも動作可能な無線機および無線通信向け集積回路の研究開発を行っています。このようなネットワークの実現の鍵となるのが、衛星に搭載される無線機の小型・軽量化、高放射線耐性、低消費電力化になります。本研究室では、学内の電気系、機械系の研究者や、国内の研究機関、企業と協力しながら研究を進めています。2022年には、JAXAの革新的衛星技術実証3号機に私たちが作成した無線機を搭載し、560km上空の低軌道に打ち上げる予定です。

宇宙展開膜フェーズドアレイ無線機の研究では、大きく展開する膜面上でフェーズドアレイ無線機を構成し、打上時には小さく畳んでおき、軌道投入後に大面積のアンテナを実現し、高速無線通信を可能にします。本研究では、展開後の膜面の非平面性を許容し、各アンテナ素子の振幅・位相によって非平面アレイを補償することで、飛躍的な小型・軽量化を実現します。これまでに、Ka帯で動作する非平面フェーズドアレイ無線機を作成し、補償技術の有効性を実証し、2022年には宇宙実証を行う予定です。

6G時代の展開型超小型衛星による低軌道コンステレーション構想
6G時代の展開型超小型衛星による低軌道コンステレーション構想
左図:宇宙展開型非平面フェーズドアレイ無線機、右図:非平面フェーズドアレイ無線機基板(2022年打上予定)
左図:宇宙展開型非平面フェーズドアレイ無線機、右図:非平面フェーズドアレイ無線機基板(2022年打上予定)

高放射線耐性無線ICの研究

高放射線耐性無線ICの研究では、宇宙の過酷な環境下においても長期間動作可能な無線機の実現を目指しています。宇宙環境における放射線は無線ICを徐々に劣化させ、無線機の機能に問題を引き起こします。本研究室が作成した無線IC は、これまでの数十倍以上の放射線耐性を実現し、無線機の軌道寿命を大幅に延ばすことに成功しました。また、超小型衛星の限られた電力リソースでも動作可能とするために、市販の無線ICの十分の一以下の消費電力を実現しています。このような無線ICの高放射線耐性および低消費電力といったコア技術の研究開発を通して、これからの宇宙に展開する無線通信の進化を開拓していきます。

高放射線耐性かつ超低消費電力な超小型衛星向けKa帯無線ICおよびフェーズドアレイ無線機
高放射線耐性かつ超低消費電力な超小型衛星向けKa帯無線ICおよびフェーズドアレイ無線機

電源不要の5G無線通信回路

宇宙だけでなく、地上においても無線通信の速度、エリアカバレッジの進化を進めるとともに、地球環境に優しい無線機、無線システムの研究に取り組んでいます。もとより宇宙における衛星搭載無線機は、太陽光によって動作するため、地上で温室効果ガスを排出しない地球に優しい通信インフラです。一方で、地上の通信インフラは、カーボンニュートラルに向け多くの課題が存在し、さらなる無線機の低消費電力化や、再生可能エネルギーの利用が強く求められています。私たちの研究では、無線電力伝送をキー技術として、超低消費電力無線機、さらに、無線電力伝送による再生可能エネルギーの有効利用を実現していきます。

これまでに本研究室は、電源不要で動作可能なミリ波帯5G中継無線機の開発に成功しています。本無線機は、無線電力伝送を利用することで電源を不要とし、28GHz帯の電波を中継、ビームフォーミングすることでこれまで電波が届かなかったエリアにおいてもミリ波帯5Gの通信を可能とします。従来、ビームフォーミングを実現するミリ波帯5Gフェーズドアレイは、アンテナ1素子につき数百ミリワットの電力を消費するため、無線電力伝送によって生成される電力では動作が困難でした。本研究では、新たに考案したベクトル加算型バックスキャッタリング技術を用いることで、3桁以上小さい1素子あたり30マイクロワットの消費電力でビームフォーミングを実現することに成功しました。作成した無線機は、安価で量産が可能なシリコンCMOSプロセスによるICによって実現し、24GHz帯における無線電力伝送および28GHz帯の5G準拠の無線通信に成功しています。

電源不要の無線電力伝送型ミリ波5G無線中継機
電源不要の無線電力伝送型ミリ波5G無線中継機
作成した無線電力伝送型5G無線機と送受信無線IC
作成した無線電力伝送型5G無線機と送受信無線IC